撮影:三浦憲治(ライトサム)
ユニコーンはロックバンドの基本であるアルバム制作とツアーの2本柱を軸に活動してきた。そのブレない姿勢が若いバンドからのリスペクトを集め、ファンからは圧倒的な信頼を得ている。それに応えるように昨年の秋、AIボーカルをフィーチャーした配信限定アルバム『ええ愛のメモリ』とフルアルバム『クロスロード』をリリース。12月から“2023-2024ツアー『クロスロード』”をスタートさせた。そしてここ山形で、4ヶ月に及んだツアーもついにファイナルを迎える。この日のライブは生中継もされることとなった。
今回のツアーのストロング・ポイントはオープニングにある。とにかくカッコいいのだ。レーザー文字によるカウントダウンがオーディエンスの気持ちを高め、続いてステージセットの廃墟を照らし出すライトショーがさらに期待を膨らませる。暗がりに目が慣れたところで、いきなりスポットライトが一段高く組まれたお立ち台にバーンと当たると、そこにはABEDON、EBI、奥田民生、川西幸一、手島いさむの5人がポーズを決めて立っているのだから、インパクト抜群! 客席はキャーキャー大騒ぎになる。
騒然となる中、メンバーがメインステージに降りてきて、小さなバンドセットに板づく。1曲目は最新アルバムのタイトル曲「クロスロード」だ。ABEDONはトイピアノ、奥田はスライドホイッスルを手にして、5人が肩を寄せ合うように演奏を開始。しかし、サビからは本来の位置に移動して演奏する。この移動を繰り返すワチャワチャ感がたまらない。スキのない登場シーンから一転してのユーモラスなパフォーマンスに観客は大喜びだ。かっこよさと面白さのギャップというバンド最大の武器が炸裂して、会場は一気にユニコーンのペースになった。
続く「Feel So Moon」は2012年のテレビアニメ「宇宙兄弟」の主題歌。原作者の小山宙哉は大のユニコーン・ファンで、『ええ愛のメモリ』に愛情たっぷりのビジュアルを提供してくれた。そんな縁があっての選曲なのかもしれない。次は1993年のヒット曲「与える男」で、たった3曲でバンドの長いキャリアを自然な形で表現したのはさすがだった。
ここから最新作『クロスロード』からの曲が続く。このパートを牽引したのはEBIの「米米夢」(注:マイ・アメリカン・ドリームと読む)だった。EBIはもともと持っていたパフォーマーとしての才能が開花して、ここ最近はライブのたびに会場を沸かせている。この日も絶好調で、スパンコールのジャケットを羽織り、ド派手なアメリカ人になりきって登場。クイズを出すなどハチャメチャな展開に持ち込み、オーディエンスを爆笑の渦に巻き込んだのだった。何より微笑ましかったのは、そんなEBIの元気なパフォーマンスを他の4人のメンバーが楽しんでいたことだった。観客はそんなユニコーンが大好きなのだ。
中盤の「オカゲサマ」は80年代のバンドブームを彷彿とさせる軽快なリズムが楽しい。はつらつと歌う手島を、ABEDONのトランペットと奥田のサックスのブラス・セクションが盛り上げる。それに負けじと川西は、折りたたみ式のビーチベッドに寝転んで「1万トンバース」を歌い出す。その後、なんとキーボード・ソロも披露したのだった。必要な楽器はすべてメンバー自身が演奏するというバンドのポリシーがいさぎよい。
手島の歌う「オラ後半戦いくだ」から文字通りライブは後半戦へ。アイデア満載の『クロスロード』の最新曲たちを、ABEDON作詞作曲の名曲「デジタルスープ」がやさしく包み込む。そこでジーンとしていたら、次の「バイカーズパラダイス」でジーンとした気持ちが完全に吹き飛ばされた。全員がバイク用のヘルメットを着用。わざと演奏しにくいかっこうをして全力で演奏する。この矛盾がたまらない。主役はまたしてもEBIだった。
ダンサブルな「ZERO」、「チラーRhythm」から終盤に入っていく。山形出身のABEDONのご当地ネタ満載の「SAMURAI 5」でみんなが笑顔になり、「大迷惑」で大興奮。奥田とABEDONのツインギターがイントロを奏でる「すばらしい日々」は涙モノで、本編ラストは早くも名曲の呼び声が高い『クロスロード』の「アルカセ」で締めた。新旧のナンバーがバランスよく配され、見事に共存していて、会場にいるいろいろな年齢層のオーディエンスがそれぞれに楽しんでいたのが印象的だった。
アンコールはユニコーンの再始動を告げた2009年の全国ツアー「蘇る勤労」の初日、山形で1曲目に演奏された「ひまわり」だった。その感動の余韻が覚めやらぬうち、最後の曲「100年ぶる~す」ではサプライズでABEDONが客席後方から出現。「し~あわせ!」と叫びながら極彩色の紙吹雪を巻きながら場内を一周する。ステージでメンバーに合流すると、5人はフラッグを振りながらハンドマイクで歌い切る。メンバーもオーディエンスも全員がニコニコ顔だ。
全力を出し切った2時間半。21箇所26公演を一度もトバすことなく完走して、「とにかく明るい」という公約どおりのツアー・ファイナルとなった。
文:平山雄一
撮影:三浦憲治(ライトサム)