2025年11月23日、神奈川芸術劇場から幕を開けたSayaka Yamamoto Hall Tour 2025-26 “home away from home”。大阪・オリックス劇場を経て、2026年1月28日・29日、LINE CUBE SHIBUYAに到達した。セットリストは新旧を織り交ぜた全19曲。全公演で、2日間ごとにセットリストを入れ替えるという、山本彩にとって初の試みも用意されていた。

SEが鳴り止むと、会場はブルースモークに包まれ、犬の鳴き声が響いた。静かなざわめきの中、トライアングルがひとつ、空気を切る。
山本彩が姿を現し、1曲目に選ばれたのは「ヒトコト」だった。
派手なイントロも、強い煽りもない。静かなピアノに導かれるように、ギターを持たずステージを歩きながら、観客と視線を交わし、言葉をそっと置いていく。
「ヒトコト」は、彼女がソロライブをスタートさせた『山本彩 LIVE TOUR 2016 〜Rainbow〜』でも、幕開けを飾った曲だ。10年の時間を経て、再びこの曲から始まったこの夜は、外に向かって叫ぶのではなく、内側へと深く潜っていくライブであることを、静かに示していた。
続く「君とフィルムカメラ」では、夕陽のような照明とブルーが交錯する。アコースティックギターを抱え、日常の風景をなぞるように歌われるその音が、会場を一気に彼女の描く時間の流れへと引き込んでいった。29日は「yonder」が披露されている。
ライブはそのまま「刹夏」へ。
“夏”をイメージして書かれたこの曲では、入道雲のような照明が立ち上がり、ストリングスの旋律がきらりと光を放つ。軽快なバンドアレンジの中に、解放感とノスタルジアが同時に息づき、ドラム、ギター、ベースに重なるストリングスが、一瞬で過ぎ去る季節の輪郭を鮮やかに描き出していく。
3曲を歌い終え、ここで最初のMC。
「こんばんは、山本彩です。“home away from home”ツアー、ありがとうございます。
新年一発目ということで、あけましておめでとうございます」
ホールツアーとしては、前回の大阪公演から約1か月ぶりのステージだ。
「ちょっと間が空きすぎて、気持ちはもう初日です(笑)」
そう笑いながら、初めて来た人にも、何度目かの人にも、“楽しむ”という一点では同じだと語りかける。
「今日は“home away from home”ツアーなので、みんなで家族みたいに、一つになれたらと思います」
会場を見渡すその表情には、この夜を“帰る場所”にしようとする、確かな意思が宿っていた。
「ラメント」で描き出された壮大な世界観を経て、ライブはそこから一気に表情を変える。
ドラムの鋭いイントロを合図に、ベースがうねり、ワウを効かせたギターが空気を切り裂く。
アコースティックギターに山本の歌声、そこへバイオリンの旋律が重なり合い、ステージは赤い照明に染め上げられていく。
披露されたのは「劣等感」だった。
「劣等感」は、山本の楽曲群の中でも、自己認識のリアルな感情をそのまま直球で描いた一曲だ。自分を飾らない言葉と歌が、フロアの感情をまっすぐに引き寄せていく。気づけば会場には大きな一体感が生まれていた。
このサウンドを支えていたのは、ソロライブの初期から共に歩んできたバンドメンバーたち。ベース・奥野翔太、ギター・草刈浩司、ドラム・SATOKO。さらに、バイオリンのAyasa、asami(Cho)、そしてキーボードとギターを自在に行き来する花井諒が加わり、サウンドはより立体的で、色彩豊かなものへと広がっていく。
続いて山本はギターをMiami BlueのAmerican Professional II Stratocasterに持ち替え、
「イチリンソウ」を歌い始めた。
ソロとして歩み始めたことを象徴するこの曲では、強く踏み鳴らすのではなく、静かな決意を胸に前へ進むような歌声が、ホールいっぱいに広がる。バンドも必要以上に感情を煽ることなく、一輪の花がそこに立っている―そんな佇まいを、音そのもので描き出していた。
ここで、2度目のMC。
「楽しんでくれてるんだろうなっていう声が、イヤモニ越しにすごく届いてます。本当にありがとうございます」
LINE CUBE SHIBUYAでのライブは、約5年ぶり。5年前、この場所で彼女が立ったステージは無観客だった。
「誰もいない景色を見ながら、配信でライブをしていました。あの時は、それが精一杯のライブだったなって。振り返ると、5年って本当にあっという間ですね」
そう笑って語ると、客席から「おかえり」の声が飛ぶ。「ただいま」と応える山本は、この場所を“第二の居場所”と呼び、当たり前ではなかった時間が、こうして重なっていることへの感謝を言葉にした。
「“home away from home”ツアーということで、今日はみんながおうちに帰ってきたみたいに、くつろいで、はしゃげる最高の一夜にしたいと思います」
そう言って客席を見渡し、「後半戦、行っちゃっていいですか?」と問いかけると、
会場は大きな歓声で応えた。その言葉の余韻を受け継ぐように、ステージの空気が静かに切り替わる。
「Seagull」では、アコースティックギターを手に、ピアノとバイオリンに包まれながら歌い始める。ステージは茶色の紅葉を思わせる照明に染まり、サビでは青い星が瞬くように光が広がっていった。
続く「JOKER」ではエレキギターに持ち替え、イントロ定番のバイオリンフレーズに合わせて、人差し指が一斉に掲げられる。疾走感のあるビートが手拍子を加速させ、幾重にも重なるブルーの照明の中、会場は一気にひとつになった。
曲が終わると照明が落ち、山本の姿だけが浮かび上がる。そして、アカペラで歌い上げる。
「両手ひろげ東京、声上げろー。リミッターを外して! 歩けばその先に道は出来る」
その一声を合図に、会場から一斉に「WOW!」が返った。
「まだまだいくぞ。Are you ready!?」という煽りとともに、披露されたのは「Are you ready!?」。
ギターリフが鳴った瞬間、観客は考える前に身体を動かしていた。空気は完全に切り替わり、ホールは一瞬でライブハウスの密度へと変貌する。演る側と観る側の境界が溶け、魂を交換するような熱が交差していった。
まだ見ぬ世界へと踏み出すための合図。この夜、この場所の温度を一気に引き上げるアンセムとして、「Are you ready!?」は力強く鳴り響いていた。
その熱を引き継ぐように、スラップベースのフレーズを起点に、ギターが絡み、アコースティックギターがビートを刻む。音が幾層にも重なり合い、「喝采」へ。
観客の手拍子と声が自然に混ざり合い、リズム帯は一気に太くなる。その鳴りは、どんなロックフェスの大箱に放り込まれても、決して埋もれない。10年かけてバンドとオーディエンスが育ててきた一体感。その結晶が、今この瞬間のサウンドとして鳴っている。
跳ね返る低音、押し切るバンドグルーヴ。ラストに放たれた「これで満足か?」という一言は、観客への問いであると同時に、ロックシーンそのものへの挑戦状のようにも響いた。
その余韻を切り裂くように、バイオリンAyasaのソロと、奥野翔太のベースが描き出す強烈なコントラスト。その流れを受けて、「ゼロユニバース」へ。
ステージには、晴れ渡る空を思わせる光が広がる。山本の真骨頂とも言える高音が、伸びやかに会場を突き抜け、天井へと放たれていった。
その余韻が会場に残る中、撮影OKのアナウンスが入ると、山本は客席に向かってこう呼びかけた。
「ツアーの感想と一緒に、SNSに上げてもらえたら嬉しいです。今日は、こんな素敵な夜を過ごせていることに乾杯したいと思います!」
そう言って、「ドラマチックに、乾杯!」と歌い出すと、彼女はステージを降り、客席の中へと歩み出る。一人ひとりと目を合わせ、言葉を交わすように歌いながら、会場との距離を一気に縮めていった。
続く本編ラストのMCで、山本は「ライブで味わう2時間って、世界で一番短く感じます」
穏やかな表情を浮かべながら、こう切り出した。
「ステージに立つたび、想像を超える熱量で迎えてもらっていて、毎回驚かされています。
今日は、その驚きをまた更新してもらいました。本当にありがとうございます。ソロとして一人で歩き出してから10年。最初は心細くて、“一人で戦わなきゃ”って思っていました。でもライブを重ねるうちに、私のライブは、私一人が作っているんじゃなくて、みんなと一緒に作っているんだって、思えるようになりました」
そして、はっきりとこう続けた。
「今では、この場所が“ホーム”だと思えています。1番じゃなくてもいい。このライブが、みんなにとって“また帰ってきたい場所”であったら嬉しいです。最後の2曲は、つらい時に一人で抱え込まなくていいように。そんな自分も愛せるように。そういう気持ちを込めて書いた曲です」
そう前置きして披露されたのが「サードマン」。ピアノとの静かな歌い出しから始まる壮大なバラードは、時間の流れをゆっくりと変えていく。間奏では草刈浩司の“泣き”のギターソロが深く響き、その一音一音が、観客一人ひとりに語りかけるように染み渡っていった。
なお、翌29日の公演では、このパートに「Larimar」が据えられ、同じ文脈を持ちながらも、異なる色合いで本編終盤を彩っていた。
本編ラストを飾ったのは「共鳴」。痛い夜も、つらい時間も、共に叫び、共に鳴き合えるように―その想いが、歌声と拍手となって会場を満たしていく。
ラストサビ前、山本はオーディエンスにマイクを向ける。
「鳴らせ 鳴らせ 溢れるかぎり誰も代わらなくていいから 終わりのないノイズを掻き分けて奏でよう ちっぽけな僕らの歌を」
その合図に、会場中の声が重なった。痛みも迷いも抱えたまま、それでもここに集まった一人ひとりの声が、同じフレーズを通して、確かに“共鳴”していく。
音がすっと引いたあと、歓声と拍手が渦のように広がる。それでもなお、ホールには「まだ終われない」という熱が、はっきりと残っていた。
アンコールの拍手に迎えられ、山本が再びステージに現れる。ギターを抱え、弾き語りで歌われたのは、まだタイトルもなく、完成もしていない未発表曲だった。
「次に歌うのは、まだ世に出るかどうかも分からない曲です」
そう前置きし、一人で過ごす時間の中で生まれた“虚無感”について語る。考え続けても変わらない感情に、自分自身で意味を与えるため、歌にしてきたこと。この曲も、完成する頃には形を変えているかもしれない。だから今夜は、“途中経過”のまま届けたいのだと。
ツアーで歌い続けるうちに、「完成させてほしい」という声が各地から届き、それが大きな励みになっているという。今年中に形にし、次に聴いてもらえる機会へつなげたい——
その静かな決意だけが、歌い終えたあとも、会場に確かに残されていた。
その余韻を受け継ぐように、再びバンドメンバーが呼び込まれ、「レインボーローズ」が披露される。ファンへの感謝と愛情を込めた演奏が、アンコールの空気をやさしくあたためていった。なお、2日目の公演ではこの楽曲のみ撮影OKとなり、会場にはより穏やかな高揚感が広がっていく。
アンコールのラストを飾った楽曲は、2日間で入れ替えられた。初日は「ヒトコト」で始まり、「メロディー」で終幕。2日目はその順を反転させ、「メロディー」から始まり、「ヒトコト」で締めくくられた。
始まりと終わりを入れ替えることで浮かび上がるのは、“home away from home”というツアータイトルが示す、循環と帰還の感覚だ。どこから来て、どこへ帰るのか——その問いに明確な答えを出すのではなく、一夜一夜の記憶そのものを「帰る場所」として差し出す。
これまでの時間と、この夜の感情をそっと束ねるように、山本彩はステージを締めくくった。
「今日は本当にありがとうございました。この思い出、記念に写真を撮ってもいいですか?」
そう呼びかけると、会場全員で「10周年!」と声を揃え、記念撮影が行われた。
その後、メンバーがステージ中央に集まり、山本はマイクを通さずに言葉を届ける。
「ツアーファイナル、本当にありがとうございました」
そして、「また皆さんに会いましょう」と微笑み、ステージを後にした。
ソロ活動10周年の幕明けの年。2016年11月2日、愛知・Zepp Nagoya。山本彩は、その場所からソロアーティストとしての歩みを始めた。
一夜一夜のステージで課題と向き合い、そのたびに、自分の中に小さな蕾を宿してきた10年。歌い、悩み、更新し続けてきた時間の積み重ねが、今の山本彩を形づくっている。
初のソロライブで、彼女はこう語っている。「レインボーローズの花言葉は、無限の可能性です。私自身も、その言葉のように突き進んでいきたい」
その想いを胸に重ねてきた軌跡は、自身の誕生日である7月14日の日本武道館へと、まっすぐにつながっていく。
10年かけて育ててきた蕾は、そこで、どんな花を咲かせるのだろうか。
文:池田鉄平





▼セットリスト
<1月28日(水)公演>
M1.ヒトコト
M2.君とフィルムカメラ
M3.刹夏
M4.ラメント
M5.劣等感
M6.イチリンソウ
M7.stay free
M8.あいまって。
M9.Seagull
M10.JOKER
M11.Are you ready?
M12.喝采
M13.ゼロ ユニバース
M14.ドラマチックに乾杯
M15.サードマン
M16.共鳴
EN1.タイトル未定
EN2.レインボーローズ
EN3.メロディ
<1月29日(木)公演>
M1.メロディ
M2.yonder
M3.刹夏
M4.どうしてどうして
M5.スマイル
M6.イチリンソウ
M7.Homeward
M8.ブルースター
M9.Seagull
M10.JOKER
M11.Are you ready?
M12.喝采
M13.ゼロ ユニバース
M14.ドラマチックに乾杯
M15.Larimar
M16.共鳴
EN1.タイトル未定
EN2.レインボーローズ
EN3.ヒトコト
▼Release
新曲『共鳴』<11月19日(水)配信リリース>
https://sayakayamamoto.lnk.to/Resonance
▼Live情報

Sayaka Yamamoto Hall Tour 2025-26 "home away from home" 公演概要
https://yamamotosayaka.jp/news/detail/2795
<公演日程>
[神奈川・神奈川芸術劇場 大ホール]
2025年11月23日(日) 開場17:15 / 開演18:00
2025年11月24日(月・祝) 開場16:15 / 開演17:00
[大阪・オリックス劇場]
2025年12月10日(水) 開場18:00 / 開演19:00
2025年12月11日(木) 開場18:00 / 開演19:00
[東京・LINE CUBE SHIBUYA]
2026年1月28日(水) 開場18:00 / 開演19:00
2026年1月29日(木) 開場18:00 / 開演19:00
●山本彩 LINK
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