渋谷で別れを告げられたときの想いが詰まった曲を、この渋谷で成仏させたい——浜崎容子『BLIND LOVE』『Film noir ultime』2枚同時リリース記念ライブレポート

雨上がりの夜空に微かな夏の匂いが漂っていた2019年7月4日、渋谷Mt.RAINIER HALL SHIBUYA PLEASURE PLEASUREで浜崎容子のワンマンライブ「BLACK OR WHITE」が開催された。この日のライブは、角松敏生が全面プロデュースしたニュー・アルバム『BLIND LOVE』、旧作のリマスタリング盤『Film noir ultime』2枚同時発売されたことを記念したもの。浜崎がふだんボーカルを務めるアーバンギャルドとは異なる、落ち着いた魅力に満ちたステージとなった。浜崎にとって初となるホールコンサートのため、開演前、彼女の歌声を待ち焦がれるファンたちにも、どこか「よそ行き」のような軽い緊張感があった。

ギターの磯貝一樹、ベースの横田健斗、ドラムのMiMi、キーボードのおおくぼけいの4人による演奏でライブはスタート。そして黒をベースにしたワンピースを着た浜崎が登場すると、『BLIND LOVE』から浜崎の作詞作曲による「リフレイン」が歌われた。アウトロでエレキギターが響くのも浜崎のステージとしては新鮮だ。激しいビートが鳴り響いた「不眠」は、角松が浜崎のために作詞作曲した楽曲。浜崎の歌声の高音が甘く美しく響いた。

さらに、2016年のアルバム『BLUE FOREST』から、菊地成孔が作詞した「ANGEL SUFFOCATION」、小林麻美がヒットさせた「雨音はショパンの調べ」のカバーが披露された。浜崎の歌声は、どこか背徳的な香りを漂わせる。

『BLIND LOVE』のリリースと同日に、2010年のアルバム『フィルムノワール』のリマスタリング盤『Film noir ultime』もリリースされた。この日歌われた「FORGIVE ME」は、『Film noir ultime』に追加された新曲だ。さらに『フィルムノワール』収録の「暗くなるまで待って」、『BLIND LOVE』収録の浜崎の作詞作曲による「バイブル」が続けて披露された。新旧の楽曲がファンを陶酔させていく。

「バイブル」の終盤で浜崎がステージを去ると、バンドによるインストルメンタルの演奏が行われ、その終わりに白いワンピースに着替えた浜崎が再登場。『BLIND LOVE』から菊地成孔作詞の「春の去勢不安」が歌われると、ボサノバのリズムが浜崎の歌声を彩った。さらに『BLIND LOVE』から浜崎が作詞作曲した「新宿三丁目」も披露された。最近の浜崎の楽曲は、東京を舞台にした楽曲が多く、そしてアーバンな雰囲気なのだ。

この日、唯一歌われたアーバンギャルドの楽曲が、2018年の『少女フィクション』に収録されていた「大人病」だ。作詞は松永天馬と浜崎による共作、作曲は浜崎による楽曲が、エレガントに歌われた。

『Film noir ultime』の新曲「Maybe Not Love」に続いて、「フィルムノワール」「思春の森」が歌われ、生演奏とともに浜崎の歌声がより生々しく、より艶やかに響いた。

「フィルムノワール」と「思春の森」の間のMCでは、「ノンストップで重い女の歌をあなたたちは聞かされてきたわけですけど、重いでしょ? 自分でも嫌になっちゃうわ」と浜崎は笑った。制作に2年の歳月を費やした『BLIND LOVE』をリリースできたことについての喜びを語り、プレッシャーから解放されたことも告白していた。それは、ときにプロデューサーの角松敏生と密に連絡を取りあい、ときに制作休止も挟んだ2年間の濃密さを物語っていた。

『BLIND LOVE』収録の浜崎作詞作曲による「これは涙じゃない」を歌う前に、浜崎は楽曲が生まれたエピソードを紹介した。「あるとき突然好きな人にメールで別れを告げられて、そのときちょうど渋谷にいたんですね。号泣しながらその人への想いを考えて渋谷の街を歩いた。その時の想いが詰まった曲です。この曲をこの渋谷で歌うことで気持ちを成仏させたい」。そう語ると浜崎は「これは涙じゃない」を歌い始めた。実らなかったかつての恋を渋谷で成仏させるために。

本編最後、『Film noir ultime』の新曲「東京、午前4時」を歌い終えると、浜崎は静かにステージを去った。

アンコールを受けてステージに戻った浜崎は、「楽しい時間はあっという間ですね。こうして私たちは死んでいくんだと思います」とあっけらかんと語ったあと、「大切なお知らせ」として、秋にワンマンツアー「Before dawn」を開催することを発表。ライブは、神戸のクラブ月世界と、東京の浅草花劇場で開催される。

最後に歌われたのは、『BLUE FOREST』に収録されていた「Lost Blue」。そして「さよなら、バイバーイ」と明るくステージを去り、大人の女性のシンガーとしての魅力に満ちた姿を存分に見せて「BLACK OR WHITE」は幕を閉じた。それは、「BLACK OR WHITE」というタイトルに反して、黒か白かでは割り切れないような、妖艶さ、優雅さ、アンニュイさ、明暗、弱さと強さといったものが交錯したステージだった。私たちは二元論では割り切れないような浜崎の歌の世界の中におり、まだまだそこから離れられる気がしないのだ。

文:宗像明将

撮影:ゆうゆっこ

<セットリスト>

01.リフレイン
02.不眠
03.ANGEL SUFFOCATION
04.雨音はショパンの調べ
05.FORGIVE ME
06.暗くなるまで待って
07.バイブル
08.春の去勢不安
09.新宿三丁目
10.大人病
11.Maybe Not Love
12.フィルムノワール
13.思春の森
14.これは涙じゃない
15.東京、午前4時
EN.Lost Blue

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